Y-2 室
Mitsuo Kano
Natsuyuki Nakanishi
世界に揺動する色彩を捉えようと「版」の瞬間に賭ける加納光於、現実世界と関わり合うための「絵画=装置」を入念に構築し続ける中西夏之。見方によっては 対照的にも見えるこの二人の美術家と、みずからの二冊の詩集をめぐって対話を 深めていった平出隆は、「美術」が「言語」を、「言語」が「美術」を励起すると いう事態をそこに見出していきます。
加納光於
Mitsuo Kano
1955年に最初の作品集を制作。翌年、瀧口修造の推薦を得た画廊での発表から注目を集め始める。モノクローム銅版画から、多色版画を経て、オブジェ、油彩へと展開。初期から絵具を自製し、静電反応によって色彩を紙に転写させる技法など、果敢な実験と試行を通じて新たな色彩空間を切り拓いてきた。
加納は、版画の手前にある金属そのものの冷たい光や硬質さについて語っている。制作過程で金属の表面は腐食液に浸され、破片や泡と化し、液体は徐々に変色していくが、その「時間性」と偶然のプロセスに作家自身も巻き込まれていくという。そこから生み出される画は、物質的なものの時間を解く糸口でもある。
「との交錯のなかで、偶成の〔 〕を消滅させるための─《喚起力》」「「逃げ水」のように見え隠れする《存在》を指し示す、明確な輪郭としての質。……硬い亀の腹面に彫られた文字のように明確な─ 稲妻形の震動への、計測」(加納「「葡萄彈─遍在方位について」ノート」より)
加納光於
『葡萄彈─遍在方位について』
『PTOLEMAIOS SYSTEM 翼・揺れる黄緯へ』は『葡萄彈─遍在方位について』に続くもので、作家自身の言語が奔騰する大胆極まりないブックアートの試みである。自身のモチーフの数々を存分に構成するばかりか、現存する他の作家との応答関係を含むもので、文学系の出版社から刊行されたことも注目された。
平出隆の小説『猫の客』に《稲妻捕り》をめぐる章がある。詩画集《雷滴 その研究》は「稲妻」の記憶を宿す。それらは散文と詩の双方から画家の仕事に迫ろうとするものである。「色彩というものが物質や大気より生れ出てからイメージを連れて変幻し生動しつづけるその現場を、まるごと捕まえること」
《雷滴 その研究》は、濃黒の版画と非常に脚の長い3行詩を組み合わせた詩画集で、計13点で構成された。詩行は1行と2行に分かれて版画の左右、画に極めて近い位置に配されている。平出は画に近づいてよい最短距離を加納に尋ねた。視線は文と画の上を往還し、見ることと読むことが一体化される。
加納光於
『PTOLEMAIOS SYSTEM 翼 ・ 揺れる黄緯へ』
加納光於+平出隆
《雷滴 その研究》
加納光於
《Ptolemy System note -74》
加納光於
《パピルスの夢 I–V》より