Y-3 室 ドナルド・エヴァンズ/河原温

Y-3 室

Donald Evans
On Kawara

人類史の極大の時間と極小の私性とを循環させ続ける河原温と、極微の内密性の構築によって、絶えず拡大する「もう一つの世界」のひろがりへと出ていくドナルド・エヴァンズ。彼らが所与の世界と拮抗する「システム」として用いた郵便やジャーナル、カタログといった方法論に魅せられた平出隆は、その内実を探るうち、いつしか「書物」についての独自の思考を形成していきます。

ドナルド・エヴァンズ
Donald Evans

1945年、アメリカ・ニュージャージー州に生れる。両親の希望で大学の建築科で学びながら、当初志していた美術のさまざまな手法を試行。卒業後は建築事務所で働くも、1971年に架空の国の切手を水彩で描き始めた翌年に退職、アムステルダムへと拠点を移して活動する。1977年、31歳の若さで火事により急逝。

架空の42の国のものとして描かれたエヴァンズの4000枚の切手は、アンディ・ウォーホルが軽やかに称賛したようにポップ・アート的な側面もあるが、その本質はむしろ言語や制度に対する繊細な感覚にある。それらの切手は形式上、言語や風土まで細心に規定された架空の国の政府によって「発行」されている。

エヴァンズが生涯にわたって作成した書物『世界のカタログ』は、制作記録であると同時に非人称の郵趣狂による切手蒐集のコレクションのような、二重性を孕む奇妙な「書物」である。作品の増加にともない増補改訂され、各版複数冊のコピーを製作。切手作品1点に手彩色が施され、署名とともに贋作でないことを示す。

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ドナルド・エヴァンズ
『CATALOGUE DU MONDE』