1984年、雅陶堂ギャラリー竹芝でエヴァンズの個展を見た平出は、当時連載を依頼されていた季刊誌に応えて、この静かな美術家の足跡を追う旅を葉書という形式で、しかもいまは亡きエヴァンズその人に宛てて書き継いでいくというプロジェクトを実行することとなる。この旅を支援したのがエヴァンズの友人たちだった。
1985年を起点としてアメリカからアムステルダム、ベルリンを経て、その間の平出自身の生の記録を交えながらの3年にわたる追跡は、見えない光に導かれるように、エヴァンズが強く憧れながらも渡ることを果たせなかったイギリスのさる孤島へ辿り着き、やがて『葉書でドナルド・エヴァンズに』へと結実する。
最初の葉書から15年半という歳月が過ぎていたが、奇しくもそれは、郵便の記録であると同時にその記録の蒐集でもあるという、『世界のカタログ』のような二重性を孕む書物となった。そしてこの「郵便=書物」というコンセプトが、のちに平出の《via wwalnuts叢書》構想の核となる。
ドナルド・エヴァンズ
《Domino. 1934. Domino.》
平出隆
『葉書でドナルド・エヴァンズに』
ドナルド・エヴァンズ
《Tropides Islands. 1958. Pictorials.》
ドナルド・エヴァンズ《Achterdijk. 1966. Pear of Achterdijk.》
平出隆《private print postcard》
打ち棄てられていた写真を引出しから選び、オリジナルの葉書フォーマットに自身の手で印刷し、知人に贈るシリーズ。各7部限定。すべてに撮影された年、自身の著作物との関係が示される。作品の内容や執筆の背景に関わる写真を、文学的テクストに対する「脚注」として呈示する書物論の実践。