河原温
On Kawara
画家・美術家。とくにコンセプチュアルなアプローチによって広く知られ、作品はしばしば巨大な時間と空間のスケールをともなう省察へとわれわれを導く。その実践の背景には鋭い批評性とメディア論的な戦術があり、通信制度や既製品を流用する一方で、緻密に仕上げられた高質の構造体を実現した。
河原温の代表作としては「デイト・ペインティング」とも呼ばれる《TODAY》シリーズがあるが、その周辺で継続してきた別の連作群では「書物」が重要な要素となる。そこには、アーティスト・ブックともコンセプチュアルな物体とも異なる仕方で、「言語」と「美術」が協働する特異なエレメントが生じている。
河原温
《TODAY シリーズ 24. JAN. 1971》
河原による一連の書物の原=形態は、タイプライターで記録されたファイル・フォーマットであった。書物形態への移行は次の段階にあたるが、そこで個人性から概念性への飛躍が生じていると平出は指摘する。書物は「類」への飛躍の形式であり、河原はこの段階を「印字」の思想として捉えていた。
活動拠点を国外に移す1959年以前、河原は「印刷絵画」の方法論を提起し、制作を行った。それは印刷工程を作品の技術的メディウムとして組み込み、創造と鑑賞の相互交流をめざす。その実践は一旦放棄されたかのように見えるが、コンセプチュアルなアプローチの重要な契機として引き継がれているとも考えられる。